オトガイという言葉は聞きなれないかもしれません。あご先をオトガイと称しますが、頤、おとがい、と表記されることもあります。
一般的には“あご”と称しますが、医学的に言いますと、‟あご”は下顎、上顎を含める広い範囲を意味します。
ここでは下顎の先端を“オトガイ”と表記させていただきます。
オトガイ部(下顎結合部)は顔貌を特長づける重要な部位であるため、正面顔(正貌)、横顔(側貌)においてさまざまな悩みがあります。頬骨、エラに関してはほとんどの患者様の要望は『小さくしたい!』ということですが、オトガイに関してはそれと異なり、さまざまな形態に対する要望があります。
その中でも日本人では非常に要望の多いオトガイ(あご先)を引っ込める(後退させる)手術に関して説明してまいります。
なお、オトガイのみではなく、口元もひっこめたい場合には顎矯正手術のページを参照してください。
下顎枝矢状分割術など3種類の手術法が紹介されています。
なお下顎枝矢状分割術はオトガイだけではなく、下顎骨全体を後退させる(引っ込める)手術であり、咬合に関係してきます。反対咬合があり、さらにオトガイが突出している場合には、両方の手術を同時に行うこともあります。両手術を併用しますと、オトガイ先端は最大で20㎜程後退させることが可能です。
横顔において顎の突出度合いを評価する際、鼻尖と口唇との関係ではRikettsのE-lineが一般に知られています。
しかし鼻の高さ、口元の突出度、オトガイの突出度の相対的関係を示すものであり、3つのうち1部位だけが正常でない場合には参考になりますが、すべての患者様に適応できるわけではありません。
セファロ側面像では、上口唇、下口唇、オトガイの突出に関する平均値が参考になります。
正面顔では、オトガイの理想的な長さに関しては、鼻下点からオトガイ下端までの長さが女性では70mm(男性では75mm)を平均とし、下口唇(赤唇)下端~オトガイ下端まで女性で35㎜、男性では38㎜を理想値として骨切りデザインを決定しています。
オトガイ幅径は左右光彩内側縁間から左右鼻翼間幅径の間であることが望ましいとされています。
術前検査としてセファロ正・側面像とパノラマが一般的に撮影されています。
当院では、CTを撮影したうえで、3次元的な骨、軟部組織形態を把握したうえで、さらにオトガイ神経、下歯槽神経の走行を精密に把握するために3次元実体模型(3D MODEL)を準備しています。
顎がしゃくれている場合に、
1.オトガイのみが突出していて歯の噛み合わせは正常な症例 と、
2.オトガイも歯も突出している症例
があります。これらを下顎前突といいます。
オトガイが突出している方は、同時に歯の噛み合わせも反対咬合の方が多いのですが、その場合には下顎枝矢状分割術や下顎歯槽骨分節骨切りで歯も含めて全体に下げていく必要があります。
前者はオトガイの手術だけで改善可能ですが、後者は顎全体を後退させる手術と歯科矯正を併せて行う必要があります。
ここではオトガイだけ後退させたい方に適応する手術法を紹介します。
一般的には、突出しているオトガイの骨(オトガイ隆起)をラウンドバーという器械で削ることが多いのです。
骨は外側皮質骨とその内側の髄質(海綿骨)に分かれています。皮質骨はラウンドバーで削れるのですが、その厚みは2~3㎜程度です。皮質を全部削ってしまい、髄質を削ろうと思うと、均一に削ることができず凹凸が強く出ます。さらに出血も多くなりますので、通常は皮質骨のレベルで骨削りを終了してしまい、これを骨削りと称していることが多いようです。
しかし2~3㎜のオトガイ隆起の後退では通常はしゃくれ顎の改善には不十分です。といいますのは、オトガイの後退に関しては、必ずしも削った量に一致して後退するわけではありません。オトガイ筋、皮膚が相対的に余剰するのと、削った骨はほんのは少しですが再生して再び厚みを取り戻してしまうからです。
他院で手術をすでに受けられて、変化がなかったという患者様が多いのは、オトガイ部の骨は削っても再生力が強く、筋肉群が発達しているため、単に皮質骨を削っても効果が得られないからです。
また骨切りしたけれども後退に関しては効果がほとんどなかったという方も少なくありません。
これは一般的にオトガイを短縮するための水平骨切り術を行って、末梢骨片をオリジナルの位置より後退させて固定した場合に起こりやすい現象です。骨片の固定のために上方の骨を是ずることができないため、水平骨切り術ではオトガイを後退させることは難しいとお考えください。
当院では突出部を削るだけの手術ではなく、‟骨切り”を行って改善します。後退させる量が大きく、削っただけの場合と異なり、海綿骨まで切除しますので再発ということがありません。
切除される骨片の形態は、シリコン・インプラントのようで、まさしくインプラント挿入術の正反対の効果がでるとお考えください。
この手術法は私のオリジナル法ですので、他院では行われておりません。
手術は全身麻酔あるいは静脈麻酔で行われます。手術時間は1時間弱です。
切開、剥離は他のオトガイ手術に準じます。
前額断(frontal section)という言葉は聴きなれないかもしれませんが、簡単に言いますと、オトガイの突出部を後退させる平面で骨を切ることです。
手術前にマーキングした骨突出部の範囲で、サジタル骨鋸を用いて骨切りを行います。
その後表面を低速ラウンドバーで滑らかに慣らして終了します。
切除できる骨片の厚みとしては6mm~10mm程度です。下顎底の厚みには個人差がありますが、通常は10~15㎜程です。
POINT 個人差はありますが、顎(あご)を最大で8~10mm短く、最大で8~10mm後退させることができる施術です。
輪郭美の基準線を基に、顎(あご)だけを見るのではなく、エラなど輪郭全体のバランスをみてトータルデザインをします。