患者様の主訴の具体的なものは、
『小顔にしたい』
『顔の横幅を小さくしたい』
『斜めから見た際の頬骨の出っ張りが気になる』
『笑うと頬の肉が盛り上がる』
『顔が曲がって見えるので、頬骨の非対称を改善したい』
などです。
頬骨の突出している部位は、
1)前方
2)斜め前方
3)側方(横幅)に分類されます。
患者様の多くは、3次元的に頬骨、頬骨弓を一体として小さくすることになります。
患者様の中には、笑った時に頬の前面が盛り上がる(頬骨の前方への突出)のが気になる方、もみあげ近辺の張り出し(頬骨の横方への張り出し)が気になる方がいらっしゃいますので、それぞれの患者様の突出部位によって手術法は使い分けられます。
頬骨縮小術は小さい切開(傷を目立たせないため)から、確実な骨切りを行わなければならず、技術的には難しい手術です。
一方、他の部位の骨切り手術と比較して手術結果という観点からいうと、"手術前に予測していた結果を出しやすい”のが特徴です。
すなわち、大切な神経の走行位置、解剖学的な限界などに手術結果を束縛されないということです。
その点では、外科医にとっては手術手技を習得してしまうまでは年月を要しますが、そのハードルを越えた時からは、安心して手術を行え、患者様の満足する手術結果を出しやすい手術ということが言えます。
広く国際的に行われている手術方法は、頬骨の体部と頬骨弓後方部の2ヶ所で骨切りして、骨片を内方転位(infracture)させるものです。
その際に骨の固定法、耳前部での切開位置などにはいろいろな手法があり、自ずと結果には大きな差が出ることになります。
手術の際に使う器具によって、骨切りの方向などが限定されてきますので私も独自の器械を考案して製作しています。
また術式と同様に大切なことは、術者(医師側)のフィロソフィー(哲学)であり、どのような頬骨形態が美しいのかを患者様と初めに深く検討すべきあります。
患者様と外科医側のゴール(目標)設定が違えば、手術後の患者様の顔貌は大きく異なってくるわけです。
手術の解説をする前に、はじめに頬骨の解剖を理解することが重要です。
頬骨は頬部の骨格の主体をなしており、前頭骨、側頭骨、上顎骨と縫合(連結)する骨です
頬骨は頬骨弓前半部と眼窩外側壁ないし下壁の一部を作る一対の骨でほぼ菱形を示します。
1) 側頭突起:頬骨弓に関与する部分は、その先端が側頭骨に接します。
2) 前頭突起:眼窩の外側壁を作る部分は、その上方が前頭骨と結合します。
3) 上顎突起:上顎骨頬骨突起と結合し、眼窩を形成します。
頬骨弓は、その前半部(鼻側)が頬骨、後半部(耳側)が側頭骨で構成れていおり、その中間部で斜めに走行する両骨の境界(側頭頬骨縫合)が見られます。
頬骨弓の形や張り出し具合は、顔面形態、サイズに大きく影響します。
1) 頬骨弓の上縁は平坦な刃のようで、耳眼平面(FH plane)とほぼ一致します。下縁は曲折していることが多いのですが、この理由は頬骨から頬骨弓前半は太く強大であり、側頭骨からなる弓の後半部は細いことによります。
2) 頬骨弓の前2/3の下縁と内面からは、咀嚼筋の一つである咬筋が起こります。また頬骨弓上縁には側頭筋の筋膜が付くので、頬骨弓は咀嚼機能と密接に関係していることになります。
頬骨は、前頭骨、側頭骨、上顎骨と縫合する骨ですから、周囲骨とのバランスを考えたうえで手術計画を立てることになります。
特に、頬骨弓の内側転位を行う場合には、上下に位置するこめかみ、頬部(エラ)とのバランスが重要であり、それを無視した手術を行いますと、バランスが却って悪くなり不自然な顔貌になります。
理想的な顔型は卵形ですが、頬骨だけを縮小し過ぎるとひょうたん型のような奇異な顔貌となります。
手術前のプランニングで ‟どの方向に何ミリの減量に行うのか”、周囲組織との相対的評価で計画することが手術を成功に導く鍵となります。
視診では、こめかみの陥凹、頬部(頬骨弓直下)の陥凹と頬骨の関係、さらに下顎角部の張り出しと頬骨弓との関係、頬骨部の左右差、などを正面、軸位(足元から)で観察します。
画像診断では、単純レントゲンは頬骨の診断においては、ほとんど役に立ちません。
そこでCT(3D-CT含む)を撮影します。
頬骨の形態に関しては視診でも想像はつきますが、左右差、前後・左右方向への張り出しの精密な3次元的な立体的評価では、3次元実体模型が圧倒的に優れています。
3次元実体模型では、骨切りの際に重要なポイントである上顎洞の厚み、頬骨弓(側頭骨)の耳前部での厚み、形態、顎関節との関係、内側転位の減少限界に重要な側頭骨頬骨突起と鱗部との距離などが、㎜単位まで正確に把握できます。
また頬骨弓の弯曲が正確に把握できますので、内方転位だけか、あるいは頬骨弓の突出部位の削骨が必要であるか、などの情報が手術前にわかり手術プランの大きな手助けとなります。
稀ですが下顎骨筋突起が内方転位を妨げることがありますが、それもこの模型で予期できます。
頬骨縮小手術における3次元実体模型のメリット
・頬骨弓の厚み、形態(突出部位)がわかる
・頬骨前頭突起の大きさ、広がり角度などがわかる
・上顎洞の広がり、深さがわかる
・眼窩下神経の位置がわかる
これらが術前に正確に把握できるので、手術を安全で確実なものにしてくれるのです。
1) 頬骨(体部)の張り出し、突出(側方・前方)の改善
2) 顔面横径(横幅)-中顔面の横幅を狭くして小顔にしたい
手術の際に切開する部位ですが、
1) 口腔内だけで行う場合:頬骨の前方突出
2) 口腔内+耳前部の2か所から行う場合:頬骨の側方突出あるいは前方突出(その両方)
に分けられます。
口腔内(切開)アプローチでは、頬骨部の前方突出だけであれば十分に手術を行えますが、頬骨弓が側方へ張り出していて、それを改善したい場合には耳前部の切開を追加します。
手術は全身麻酔下に行われます手術時間は1時間程度で、日帰り手術で行われます。
手術前に皮膚上に頬骨突出部位を等高線で正確にマーキングしておきます。
口の中からの切開(上口腔前庭切開2㎝ほど)にて上顎骨、頬骨を骨膜下にて剥離し、露出します。
上方は眼窩下縁から外側は頬骨前頭突起に向かって、更に頬骨弓外側に向かい出来る限り広範に剥離を行います。但し、咬筋の剥離は最小限とし、術後の頬の弛みを防止するように心がけます。内側では眼窩下神経を確認する必要はありません。
皮膚上のマーキング、3次元実体模型の分析から、各種ラウンドバー(3~5㎜)を用いて体部の削骨を行います。
削骨の際には、突出部を三次元的曲面で小さくするイメージであり、平面的にすべきではありません。
また削りすぎると上顎洞を開放しますが、それ自体は問題にはなりません。
頬骨側頭突起部では、盲目的な削骨となります。手前がテコになるためラウンドバーで削ることができなくなります。
そこで弯曲の付いたオステオトーム(曲)を用いることにより曲面的な骨削りを行うことになります。
術者には削り加減が見えませんので、内視鏡が役に立ちます。特に前頭突起、側頭突起で段差を作りますと、術後に目立って患者様が気になる可能性があります。内視鏡下にて確実に段差を解消しなければなりません。また曲面のグラデーションをつける為にも頬骨弓中央部あたりまで広範囲に削骨を行っていきます。
最後はダイアモンドラスパで慣らして手術は終了します。
弓部の側方への張り出しが軽度の場合、あるいは患者様がわずかな変化を望む場合には、弓部の削骨だけで済むこともありますが、実際にはほとんどの症例で骨切りによる内方転位(infracture)を行っています。
全身麻酔下に手術は行われ、手術時間は2時間半程度です。通常は日帰り手術で行われます。
口腔内アプローチに加えて耳前部にS状切開を加えます。
この切開はフェイスリフト(しわ取り手術)の際に行われる切開のごく一部だけを利用するものです。
傷は髪の毛で隠れやすいこともあり手術直後から目立ちません。
はじめに先に述べた方法で、上口腔前庭(口の中)から骨膜下に頬骨を露出します。
次に耳珠前方にて剪刃を用いて側頭骨頬骨突起(頬骨弓の基部)を露出します。その際に浅側頭動静脈を温存する様に剥離は鈍的に慎重に行います。
骨に達したら、ラスパで中央部に向かって2~3㎝程骨膜下に剥離を行い、頬骨弓上縁から深側頭筋膜を剥離します。
骨切りは最初に頬骨弓から行います。その際に私はピエゾサージェリー(超音波骨切り器)を使用しています。
この部位の骨切りは、電動の骨鋸あるいはノミを使用するドクターが多いのですが、明らかにピエゾが優れているのは以下の3点です。
1) 顔面神経側頭枝の損傷を避けることができます。骨切りラインのやや前方に顔面神経・側頭枝が走行しています。骨切りの際に電動骨鋸、ノミなどを使用した場合には、顔面神経を損傷する可能性があります。
ピエゾでは骨のような硬組織はカットできるのですが、軟部組織はカットできないため重要な神経、血管を損傷する可能性がほとんどありません。
2) 骨切り線が非常に細く繊細であり、計画に沿った骨切りが可能です。骨切り面における熱損傷が少ないため骨癒合に有利です。
逆に骨癒合がしっかり行われない場合には後戻りの原因になります。
3)頬骨弓を薄く2分割するように骨切りを行うことができる
さらに言いますと、この部位では骨切り方向、骨固定が大変重要です。
もみあげの後方に小さい切開をして、オステオトーム(ノミ)などで頬骨弓を骨切り、落とし込みを行うという方法が一般的に行われています。この方法では骨の固定を行いません。
口腔内からのアプローチで頬骨のL型骨切りを行い、固定するのでは、頬骨弓は外側にはねてしまい耳前部で突出が目立つという合併症がおこります。
それを防止するためにも耳前部でも骨固定を行うきです。
また固定しない場合には、もみあげ周辺(最突出部位)で頬骨弓はほとんど内側に落ち込まず、顔面の横幅はほとんど変わらないという結果になりやすいのです。
顔面の横幅を小さくする、すなわち正面顔で小顔にするには頬骨のもっとも横に張り出している部分を狭くしなければなりません。
その意味では耳前部での頬骨弓のプレート固定は確実な横幅減少をもたらすことになります。
この部位での骨固定を確実に行うためには、骨切りの方向が重要です。
顎関節の前方は骨が厚く、捻じれた形態であるため実際には骨切りがしにくい部位です。
そこで多くのドクターは顎関節より離れて前方で骨切りを行っていますが、内方転位させると強い段差ができてしまい、術後に段差が目立ちます。
段差をなくそうと後方の側頭骨を削骨してしまうと、皮質骨がなくなり、スクリューが効かなくなり、固定ができなくなるというジレンマがあります。
しかしそれは簡単に解決できるのです。
私の耳前部アプローチの特徴は、
1)耳の輪郭に沿ったS状切開をして、直視下に骨切り、骨固定を確認すること
2)ピエゾは先端が自由な方向に動かせるので、顎関節の上から前方にかけて骨を分割(これが非常に重要!)しながら骨切りを行うこと
です。
これにより、骨切り後に頬骨弓を上方(頭側)に移動させながら、確実に内側に移動させることができます。
骨癒合に関しては接触部分が大きいため、一般に行われる骨面に対して垂直方向の骨切りより数段有利になります。
癒合がきちんと行われることは術後の後戻りがほとんどないということにつながります。すなわち効果は永続するという意味です。
また頬骨弓を頭側に移動させる最大の理由は、骨片に付着している咬筋を頭側に引き上げることにより、たるみを防止しようというものです。
患者様からは、『頬骨の手術後には頬がたるみますか?』という質問をよく受けます。これは一般的に行われている頬骨縮小術後に、咬筋を中心とした頬骨に付着している筋肉が骨切り後に内側、下方に引っ張られるためです。そこで頬骨弓は術後のたるみ防止のために、頭側に移動させるべきであります。
ピエゾによる骨切り、確実なプレート固定により、頬骨縮小によるデメリットを解消できるようになったのです。
耳前部での骨切りが終了したら、固定する前に口腔内の骨切りに移ります。
口腔内からの骨切りは、世界中のドクターによって大きな差はありません。ストレートに切る先生もおりますが、通常はL 型に近い形での骨切りを行います。
前方は上顎骨の頬骨突起で垂直方向の骨切りを行います。その際に何㎜幅で骨切りを行うかで術後の顔の横幅が大きく左右されます。通常は5~8㎜程度ですが、最大で10㎜程度までは可能です。
骨切り線の外側は上顎頬骨縫合で、それより内側の上顎骨を切除することになります。
私は5㎜のラウンドバーで削り取っていきます。その際に上顎洞は解放されますが何ら問題はありません。
但し、慢性副鼻腔炎(蓄膿症)のある患者様では術後に症状が現れる場合がありますので注意が必要です。
続いて行われる水平方向での骨切りですが、眼窩下縁より7~8㎜離して前頭突起に向かって、眼窩下縁の形状に沿って骨切りを行っていきます。その際3㎜ラウンドバーを用いますが、ここで幅をとって骨切りを行う理由は、頬骨を固定の際に上方に引き上げるためです。すなわちたるみの防止です。
患者様の年齢、術前の頬の弛みの状況に応じて4㎜バーを用いることもあります。
骨切り完了後には骨片の十分な可動性を確認して骨固定に移ります。
固定は0.4mmワイヤーないしはプレート(チタン、吸収性)で行います。
骨切り幅(内方転位量)によって角度的に骨固定の難しさが違いますが、基本的にはL型あるいはストレート6穴チタンプレートで固定を行っています。
なおチタンプレートに関しては抜釘(プレートを抜くこと)は特に必要はありません。ただし患者様の希望に応じて骨癒合を見計らって6ヶ月以降に抜くことが可能です。
骨固定に際して重要なのことは、骨の断端同士を可能な限り密着させることです。筋肉の作用で密着が難しい場合には、骨の両端に骨孔をあけて、はじめに吸収糸で骨片同士を強く縫い寄せます。上顎骨がこの部位で薄いこともあり、ワイヤーで強く締め上げると骨のその部分で亀裂が入って寄らないことがあります。糸であれば骨に亀裂が入ることがないため、安心して縫い寄せられます。ときに2か所でこの作業を行うこともあります。これはあくまで仮固定であり、そののちにL 型チタンプレートで適切な位置で強固な固定を行うべきです。
強固な固定をする意味は、筋肉の作用で頬骨には下方に牽引される作用が働きますので、たるみの防止、骨癒合(後戻りの防止)を考えてのことです。
骨片固定後は、眼窩下で骨片間に段差が生じますので、3~5㎜ラウンドバーで可及的に段差を解消します。
前頭突起部では内視鏡を挿入して、ラウンドバー、オステオトームで丁寧に段差を慣らしていきます。この部位は術者よりブラインドとなって見えないため、内視鏡が役立ちます。
続いて耳前部に戻って骨固定を行います。骨を上(頭)側、内側によせてチタン製マイクロプレートで固定します。この部位ではチタンプレートを適度に屈曲させて、内側転位させます。切開が小さく、術野は狭いのですがこの部位での骨固定は患者様の術後の顔幅を決定する重要な要素ですので適切な位置での固定が重要です。
耳前部は6-0ナイロンで細かく縫合し、口腔内は吸収糸で縫合して手術は終了します。
3次元実体模型で頬骨弓の弯曲の頂点で骨の厚みを計測します。骨の厚みが3~4㎜以上ある場合には削骨を考えます。
それ以下であれば、削る際に骨折させる可能性がありますので慎重に対処すべきです。
耳前部の切開から側頭骨頬骨突起を露出し、骨膜下に頬骨弓を剥離して、口腔内切開とつなげます。但し咬筋は剥離してはいけません。
はじめにオステオトーム(直)を使用しますが、一気に深くノミを入れると骨折しやすいため、慎重に薄い骨片を剥いでいくようにするのがコツです。
最後にレシプロケーティングソーのラスパを使用して、少しずつ削骨していきます。頬骨弓の裏側にマレアブルリトラクターを挿入すると削って残っている骨の厚みがわかります。頬骨弓の厚みとして2㎜残すことを目安に削骨します。その際厚みだけでなく頬骨弓の巾(頭側)をもノミで削ることにより弓部の突出はより一層解消されます。
【合併症】
過剰切除
骨切り部での段差
顔面神経側頭枝麻痺
頬部の弛み
頬骨の側方への張り出しを改善するために頬骨内方転位を行っていますが、内側移動量は右側6㎜、左側5㎜です。
手術前には凸凹とした顔面輪郭でしたが、術後にはこめかみから頬にかけて凹凸のない滑らかなアウトラインとなりました。
頬骨内方転位移動量は右8㎜、左7㎜です。
頬骨、エラが強く張り出しており顔が大きくそのせいで目鼻などのパーツは中央に寄っていました。
患者様はできる限り小顔になりたいという希望でした。
手術前には頬骨弓の張り出しが強く、正面顔では耳があまり見えなかったのですが、頬骨内方転位により顔の横幅が細くなったために、両耳がしっかり見えるようになったのがわかります。
また中央に寄っていたパーツがバランス良い配置になっているのがわかります。
エラの改善手術と合わせて、斜めから見た際には頬部(cheek)の面積が大幅に減少したため、3次元的に大きな小顔効果が得られています。
頬骨内方転位量右7㎜、左6㎜です。
頬骨、エラの張り出しは強く、オトガイは短く平坦であるため、スクエア(四角い)な顔型でした。
頬骨は正面から見た際に横幅は大幅に減少しており、斜めから見た際にも突出が減少しているのがよくわかります。
オトガイからエラにかけてはほっそりとしたVライン形成術を行っています。
その結果として顔型は理想的な卵形に改善しております。
術前
術後7ヶ月
術前
術後7ヶ月
術前
術後7ヶ月