LeVeen らがラジオ波によるがん治療法を報告して以来、幅広くさまざまな医療分野に応用されています。
顔面輪郭の下1/3の幅の広さは、主に“下顎骨の大きさ”と“肥大の咬筋”によるものです。
咬筋肥大症は、人種や食習慣が原因でアジア人(特に韓国)に多いとされています。
顔面輪郭の下1/3で四角い輪郭を、ほっそり滑らかな輪郭にしたいという女性にとって、咬筋は薄ければ薄いほど理想的な輪郭に近づくわけです。
ラジオ波(RF)による咬筋肥大症の治療は、低侵襲(安全で簡単)でありながら有効な治療法です。
ラジオ波電流は特殊な電極からモノポーラで肥大した咬筋へ送られます。ラジオ波発生装置は低熱エネルギー(60℃~80℃)を生成し、筋肉細胞を変性させて凝固壊死を起こします。
適応としては、顔面下1/3をほっそりと小さくした患者様です。一般的にはエラ(下顎角)の骨切り手術を行うことが多いのですが、そのような大きな術式を受けたくない患者様、ボツリヌス毒素A(ボトックスR)注射を繰り返し受けたくない患者様には良い適応となります。
実際に、当院では下顎角形成術と同時に本法を適応することが多くあります。
顔面下部の輪郭を改善するためにはエラ削り以外に、咬筋切除、ボツリヌス毒素Aを注入するなど、色々な治療方法が報告されています。
ボツリヌス毒素Aの注入は現在では一般的な治療法です。神経末梢からのアセチルコリンの放出を抑制することにより、一定期間(約4~6ヶ月)における筋萎縮を誘発します。但し毒素の効果は一時的なもので症状は再発します。
通常はボツリヌス毒素注入後4~6ヶ月に再発が見られますので、効果を長く維持するには4ヶ月から6ヶ月経った時点で繰り返しの追加注入が必要となります。
頻回に毒素注入を繰り返しますと、咬筋は長期的に薄さを維持するようになります。しかし咬筋部位だけが過度に萎縮した場合には周囲軟部組織とのバランスが崩れて、窪んで色素沈着を起こして、非常に”奇異な顔面形態”となるため注意が必要です。毒素注射は適度に咬筋が萎縮した時点で中止すべきで、過度の注入は禁物です。
咬筋委縮の永久効果を求める患者様に対して、近年ラジオ波(RF)のエネルギーを利用して咬筋を萎縮させる方法が行われています。
ラジオ波(RF)電流は、イオン性攪乱(ionic
agitation)を誘発するエネルギー源です。イオン性攪乱は、摩擦熱(60~80℃)でタンパク変性を起こし、肥大した咬筋をスポットで凝固させ、その結果壊死を起こします。
ラジオ波は、交流電流でイオン性攪乱(ionic agitation)を誘発し、摩擦熱により組織凝固を誘発します。電極ではなく組織自体から放熱するため、周辺組織を傷めることはなく、self-limiting
biologic switch
mechanismによって過度の組織損傷を防ぎます。RF発生装置によって過大なエネルギー配給が発生した場合は針に黒焦げができて、電気抵抗が上がって電流は止まります。レーザー療法や電気焼灼と異なって過度の組織破壊を防ぐことができるわけです。
ちなみにレーザーや電気焼灼を組織凝固の際には400℃を超えるほどの高熱を発します。一方、RF発生装置では組織の温度を60℃から80℃まで低いレベルで維持できるために安全です。
当院では、6.15MHの高周波を使用しています。低い電圧と電気火花を生じない高周波の出力を併用しているため、周囲の細胞組織の炭化や損傷は生じません。
このシステムなら感電や火傷など潜在的なリスクを防止でき、安全を確保できるわけです。
もう一つRF装置の独特な性能として、1秒、1/2秒、1/4秒、1/8秒から作動時間を選択できるため、精度の高い凝固ができます。本機能を利用すれば、安全かつ簡単に咬筋の縮小が行えます。
Aesthetic Plastic Surgery January/February 2007, Volume 31, Issue 1, pp 42-52 Radiofrequency Volumetric Reduction for Masseteric Hypertrophy Young Jin Park M.D.
ラジオ波を流すことによって凝固壊死が生じますが、炭化抵抗のレベルでは電気の出力が自動的に止まるために、焦がすことなく均一の大きさの熱損傷を生成できます。
通常の創傷治癒過程を経て、壊死は瘢痕形成や組織収縮につながり、筋肉のボリュームを減少させます。
RFによる筋肉減量効果は、ボツリヌス毒素注入療法とは異なりほぼ永久的に維持されます。
術前に咬筋の境界(前、後、上、下縁)をマークしますが、辺縁がはっきりしないことも多く、患者様が奥歯をくいしばっている状態でマーキングします。次いで耳垂下部と口角を結ぶラインをマーキングしますが、咬筋を凝固する範囲はこのラインより下側(咬筋下部の1/3)に限定します。
これは咬筋中央部で咬筋動脈とステンセン管(耳下腺管)の損傷を避けるためです。
手術は静脈麻酔下に行います。患者様は無意識であるため、痛み、恐怖感は感じませんので安心です。
1%リドカインEを均等に口腔内から咬筋へ注入します。口腔内にほんの数㎜針穴をあけるように切開をします。
長さ120mmの絶縁針電極を使用しますが、先端部が7mmだけ出ており、この部位で筋肉の凝固が行われます。
17ゲージの導入針と、カスタマイズされたモノポーラ(単極)RF電極針(Sometech Medical 社製のDr. Oppel)を、術前にマーキングした咬筋下部1/3へ差し込みます。
挿入層ですが、周囲の軟部組織、顔面神経頬枝、深部中央咬筋動脈、ステンセン管(耳下腺管)の損傷を防ぐため下顎骨(骨膜上)に挿入します。
下顎角(エラ)より3㎝上方で外頸動脈より咬筋に入る深部中央咬筋動脈の損傷を防ぐため、電極針を3㎝上方のポイントよりやや下に挿入します。
電極針を1㎝間隔で引きながら、凝固(目標温度は60℃~80℃)していきます。片側の咬筋のスポット数はおよそ30か所を目安とします。
但し咬筋が非常に厚く大きい場合には、スポット数を適宜追加します。
ラジオ波(RF)エネルギー(平均出力:バイポーラ電極の場合は35W±10%、モノポーラ電極の場合は60W±10%)は各スポットに2~4秒送られます。スポット毎に届くエネルギーは約70±10Jであり、咬筋片側でのエネルギー総量は1.26kJから2.4kJとなります。
Aesthetic Plastic Surgery January/February 2007, Volume 31, Issue 1, pp 42-52 Radiofrequency Volumetric Reduction for Masseteric Hypertrophy Young Jin Park M.D.
頬部の解剖。
(A)顔面神経。頬枝と下顎限界枝の位置に注意する。
(B)耳下腺とステンセン管(耳下腺管)。
(C)ECA、外頸動脈、MA、顎動脈、dMMA、深部中央咬筋動脈、sMMA、浅部中央咬筋動脈、SMA、上咬筋動脈、TFA、顔面横動脈。MMAは深枝と浅枝に分けられる。dMMAは筋肉の中後部に入り込み、筋肉の深部内で走行する。dMMAの位置に注意する。
バイポーララジオ波(RF)電極のエネルギー設定と出力電力を示すグラフである。(A)電力(W)と抵抗(Ω)の関係。(B)2.5から4.5段階の設定は30から40Wに相当する。
術後1~2週間で腫れが引いてきますが、最初は開口制限があり、口が大きく開けにくい状態がしばらく続きます。
2週間経過後には開口も問題がなくなり、通常通りの食事に戻れます。
1~2ヶ月間は軽度の圧痛や硬結が認められますが、徐々に軽減してきます。
術後4~6週目で筋肉が薄くなったことを実感します。6週間以降は咬筋縮小は明らかとなり、最初の3ヶ月(最大限6ヶ月)で最も顕著な変化が現れます。 最長で12ヶ月まで縮小効果が続くことがありますが、これは瘢痕組織吸収によるものです。 6ヶ月経過後、最終的には咬筋の厚みは10%~60%(平均27%)ほど減少します。 およそ10㎜の厚みのある咬筋は施術後に7㎜の厚さまで薄くなると理解していただくのが良いでしょう。
重大な合併症はなく、粘液性漿液の貯留、感染などが起こりえます。
一時的ですが、顔面神経の軽い麻痺が2~4週間程度出現することがあります。笑ったりした際に口が歪みますが、内服も必要なく自然回復します。