出っ歯、受け口など顎変形症の外科的治療において、術前の矯正治療(通常1~2年)は行わずに、はじめに手術で上・下顎を理想的な位置に整復し、その後に歯科矯正治療を始めるという治療法です。出っ歯、受け口などの患者様で、歯並びを良くするだけではなく顔貌を骨格から大きく変化させる顎矯正術を受ける方が近年増え続けています。その背景には医療技術の進歩、医療器械の開発が大きく、手術そのものに対する信頼性が上がったことが大きく影響しています。
顎変形症に対する顎矯正手術は以下の2つに大別されます。
現在大学病院などで行われている顎矯正手術の一般的な治療の流れですが、以下の3段階に分けられます。
患者様にとっては、いざ手術を受けようと思っても治療期間の長さ(通常3~4年)を含めて、様々な不都合が生じるのもこの治療法の欠点であります。特に第1段階である術前矯正が全過程のうち最も時間がかかり、初診から第1段階終了までは平均1~2年を要します。
そこで近年患者様の要望に即して、治療の初期段階で“まず顔貌を変化”させて、コンプレックスを取り除こうという治療計画を行う報告が増えてきました。1991年にBrachvogelが提案し、術前矯正の欠点、不便さを軽減することが目的でした。この治療法ではSurgery First(サージェリーファースト)と呼ばれ、術前の矯正治療を省略するか、大幅に短縮します。治療の初期段階で手術が行われ、上下顎を理想的な位置に整復して、その後に矯正治療を行うという治療法です。
患者様の主訴は、咬み合わせの改善ではなく、下顎が突出している顔貌を改善したいとのことでした。術前矯正を行うと、1~2年間は現在より下顎前突感がかえって強まり、顔貌は悪化します。そこで術前矯正は省略して顎矯正手術を先行して、その後に術後矯正を行った症例です。
ただし、この治療法は高度なアプローチと多くの経験が必要で、どこの施設でも行えるわけではありません。矯正歯科医にとって最終咬合の予測は非常に難しいことです。また外科医にとっては、術前プラン(顎骨位置、咬合)に合わせて、1㎜以下の精度で骨切り、固定を行わなければなりません。経験豊富な歯科矯正医と顎矯正外科医が緊密に協力し合わなければなりません。慎重に症例を選び、最終的な咬合状態を事前に想定し治療計画を立てることにより良い結果が得られます。Surgery first法の基本原則を有効活用すれば、ほとんど症例で術前の歯列矯正期間が無くなります。何と言いましてもコンプレックスのある顔貌を初期段階に手術で大幅に改善できることは、患者様にとりまして大きな魅力であることは間違いありません。
骨格性下顎前突に対して、術前矯正を行わず(サージェリーファースト)下顎枝矢状分割法を行いました。セットバック量は13㎜でした。術後は咬合のみならず顔貌も大きな変化が得られ、オトガイは患者様の希望に沿って平均値よりもやや後退気味の仕上がりとなりました。横顔では下顎角からオトガイ先端(ポゴニオン)の距離が短くなり、小顔効果も得られております。