曲がった鼻筋(斜鼻)は、数種類の骨形態改善用の器具を使って、骨格自体を改善します。斜鼻に対しては鼻中隔という軟骨自体も曲がっている可能性が高い為、同時に鼻中隔も処理します。
鼻骨骨切り術は、鼻の大きい欧米ではポピュラーな手術ですが、我が国では適応症例が少ないこともあり決してポピュラーな手術とはいえません。しかし生活習慣の西欧化に伴って日本人の体型も西欧化してきており、外鼻形態も徐々に西洋人に近づいてきている現実を考えると、今後は需要は増えることが予想されます。
元来鼻骨骨切りは、hump(ハンプ、段鼻)切除後のopen roofを閉じる手段として考案されたのですが、今日では以下の目的で施行されています。
1.鉤鼻、段鼻の改善:ハンプ切除後の open roofを閉鎖する
2.広鼻の改善:広い鼻の基部を狭くする
3.斜鼻、彎曲鼻の改善:外鼻の外側壁の変形(左右差を含む)をまっすぐにする
さらに鼻骨骨切り術は、その骨切りラインによって次のように分類されます。
Ⅰ.外側骨切り(lateral osteotomy)
Ⅱ.内側骨切り(medial osteotomy)
Ⅲ.横断骨切り(transverse osteotomy)
外側骨切りは、鼻腔内(梨状孔縁)アプローチと経皮アプローチに分類されます。骨切り線は、症例に応じてlow-low(低位ー低位)、low-high(低位ー高位)などが報告されています。また外側骨切りに、内側骨切り、横断骨切りなど組み合わされることも多い。
梨状孔縁切開で、鼻腔内で下鼻甲介の前方に5㎜程度の小切開を置く。
剥離は骨膜下で骨切りラインに沿って最小限の幅で行う。できる限り周囲の骨膜は温存するが、術後の骨固定を安定させるためである。次に剥離子を翻転させて骨の裏面である鼻腔側粘膜を同様に剥離する。骨膜、粘膜の損傷は術後にcollapse(骨、軟骨などの支持組織が本来の位置ではなく、後方に落ち込む)を引き起こし、鼻閉の原因となり、形態的にも陥凹変形,鞍鼻変形などを引き起こすことがある。したがって一連の操作では組織を愛護的に扱うことに細心の注意を払う。
右手で12mmガード付オステオトームを保持し、常に左手の指で皮下での刃先の位置を確認しながら助手にハンマーで叩いてもらいながら予定線に沿った骨切りをします。
骨切り線は実際には鼻骨ではなく上顎骨・前上行枝に沿い、最終的に上限は内眼角間の高さまでとなります。
stab(微小切開=1~2mm)は両側に眼窩下縁の高さで、上顎骨前頭突起の立ち上がりに置きます。
骨切りには、幅2ミリの鋭いオステオトームを使用します。骨切りは鼻腔内アプローチの際のように連続的ではなく、1~2mm間隔にて破線状態で進めます。はじめに刺入部から尾側の梨状孔縁に向かい、その後は頭側に向かい上顎骨前頭突起で内眼角の高さまで進めます。
1)
最大の利点は、ほぼ術者の意図したとおりに骨切り線をコントロールしやすいことです。鼻腔内アプローチでは、実際にはオステオトームが骨切り予定線上にあるかどうかがわかりにくく、またノミ先端が方向的に内眼角、眼球に向かっていくため重大な合併症を避けようと本能的に内側に避けていく傾向があり、結果として予定より高い位置(low
to high)での骨切りとなることが多いのです。
2)経皮法では軟部組織のダメージが少なく、とりわけ骨膜の大部分が無傷であり、collapse(落ち込み)などの重大な合併症が少なく安全です。術後形態に関しては、骨膜下の剥離を行わないため骨片が皮膚側に付着したままの状態であるため安定した結果を残しやすい。一方、大きな剥離を要する鼻腔内アプローチでは骨切り後に遊離骨片となる可能性も高く不安定になりがちです。
3)眼角動脈損傷を避けることができるため術中出血も少なく、当然術後の腫脹、内出血も最小限に抑えることができる。
(a) low to high (低位ー高位)(梨状孔縁から open dorsum まで)
・軽度 hump(小さいopen roof)の場合
・軽症の広鼻の場合
(b) low to low(低位ー低位)
・重度humpで大きなopen roofを残した場合
・もともと内眼角あたりまで幅の広い、重度の広鼻を狭くしたい場合(広鼻)
鼻骨と骨性中隔との間の骨切りを内側骨切り(medial osteotomy)と称します。通常オープン法でハンプ切除後に、外側骨切りに先立って内側骨切りを行います。細い幅5mmのノミを使用し、直視下にopen roofの頭側に差し込んで左右ともにmedial obliqueに骨切りを行う。この骨切り線は、続いて行う外側骨切りに連続した瞬間に骨の可動性が容易に確認できるため、内眼角を超えて頭側に骨切りを行うのを防止する役目を果たします。
重度の広鼻に対してlow to lowの骨切り(lateral osteotomy)が行われますが,頭側の骨切り線は、両側の内眥を結ぶ線上までとしますが、左右の外側骨切り線を結ぶように横断骨切りが必要になります。横断骨切りの両端に2mmのstabを入れ、両側から中央でつながるよう骨切りを行います。
斜鼻(鼻が曲がって見える)の基本的な構造要因は、骨錐体(骨性斜鼻)、鼻中隔変形(軟骨性斜鼻)、またはその両者が原因しています。病因は先天性または後天性(外傷、手術などによる)に分けられます。
治療の目的は、①形態的な曲がり、彎曲の矯正 ②鼻閉の改善です。
斜鼻変形の矯正を成功させるためには正確な術前診断、解剖の知識、さまざまなテクニックを組み合わせて、総合的に判断して手術を計画する必要があります。
斜鼻の治療に関しては、まず外科医として日常的に行われている方法(鼻中隔形成、骨切り、組織切除・移植など)は駆使した上で、さらに手術中に臨機応変に変形に対応できる技量が要求されます。
鼻の構造は頭側3分の1では骨、尾側3分の2では軟骨によって支持されています。骨の部分は骨切り、ラスピングによって改善可能であり、下の部分は軟骨、軟部組織の操作により矯正します。実際には軟骨の矯正が難しいのですが、軟骨組織、軟部組織は生来の記憶により斜鼻の状態に戻ろうとする傾向があるからです。
もし斜鼻が頭側3分の1に変形が限定されるのであれば、治療法としては鼻骨骨切り(外側、内側)で十分です。術後のスプリントによる固定は2週間行います。
ほとんどの斜鼻の要因として、尾側3分の2の軟骨部分が何らかの形で変形に影響しています。その場合には外側鼻軟骨は鼻中隔から一度剥がして、彎曲している鼻中隔に割を入れたり、一部を切除したり、矯正のためにspreader graftなどをおこなうことになります。骨切り後にこの軟骨部分の処理が適切に行わなければ、彎曲軟骨構造の記憶により再び術前の位置に後戻りしやすい。
斜鼻矯正手術は、オープン法で行います。
まず上外側鼻軟骨と鼻中隔を分離します。ひとたび鼻中隔をULCから分離すると鼻背部での曲がりの角度がわかりやすい。次に鼻中隔軟骨の採取を行うが、その際L-strutは鼻背側、尾側とも最低でも6~8ミリは残すようにする。軽度の曲がりであれば内側・外側骨切りにより鼻中隔は中心に戻り、前鼻中隔角にULCを縫合してcollapse(落ち込み)を防ぐ。しかし骨切りだけでは鼻中隔鼻背部の偏位が残ってしまう症例も少なくありません。
鼻中隔の偏位は
1)全体に及ぶ、
2)尾側だけ、
に分類されます。
軽度から中等度のC型変形の患者で尾側が正中にあれば、カモフラージュテクニックで矯正します。すなわち接線方向の面で突出側を削り、反対側の陥凹部側には spreader
graftをかませます。ドナー(採取部)は原則として鼻中隔とする。鼻中隔とgraftは縫合固定し、両側のULCもこのcomplexに縫合する。この時点で皮膚を戻して鼻柱で仮縫いをしてみて、矯正度合いの確認をするが、曲がりが残っているようであれば陥凹が残っている側に鼻すじを通す形でonlay
grft等も考慮します。その際には耳介軟骨をドナーとしますが、耳介軟骨は軽くクラッシュしてその癖を矯正しないとかえってその輪郭が目立つので要注意です。
重症のC型変形では両側のspreader
graftが必要です。この場合には両側の耳珠から最大限に軟骨を採取します。彎曲している鼻中隔軟骨にはメスで割を入れてできる限り彎曲を矯正しておき、graftを縫合固定します。もし矯正不十分であれば鼻すじにonlay
graft (筋膜+軟骨、インプラントなど)も考慮します。
鼻中隔尾側縁は、ドームへの付着(ドーム間靭帯)と内側脚への付着を通して鼻の下3分の1を支持しています。もし尾側が重度に偏っている場合には支持力が明らかに低下し、鼻尖の突出がなくなります。鼻中隔尾側の支持が無くなると、短鼻、曲がった鼻、鼻柱収縮が起こる可能性があります。したがってこの支持力を復元し、また鼻閉の改善を目的に尾側偏位を直す必要があります。軽度のずれであれば整復は容易で、上顎の骨(ANS)に穴を開けて縫合することにより矯正できます。後方の中隔が上顎crestから亜脱臼している場合には、鼻中隔尾側を少しトリミングして、ずれている反対側のANSに縫合固定します。