日本人の鼻の特徴は、西洋人と比べて小さい(低く、短い)ことです。そのため鼻の美容形成手術のなかでも、隆鼻術(鼻を高くする)はもっともポピュラーな手術です。
隆鼻に利用される素材
人工材料(biologic materials)と自家組織(alloplastic materials)に分類されます。
自分自身のの骨(腸骨、頭蓋骨・外板)、軟骨(耳介軟骨、肋軟骨、鼻中隔軟骨)、筋膜、真皮などが挙げられます。これら自家組織は感染などの合併症は少ないのですが、長期的には吸収、変形などの問題、採取部(ドナー)の犠牲、細工の難しさ、2次修正を要する場合に移植組織が癒着することにより手技的に困難に
なる、等々の欠点も指摘されています。
90年代後半になり、Diced cartilage(軟骨細片)という自家組織移植の欠点の多くを改善した新しい術式が報告され、有用な方法であると考えます。
一方、alloplastic
materialsとして代表的なものはシリコン樹脂です。シリコン樹脂は、生体反応が少ない安全な人工埋入補填材料として、現在まで約50年にわたり利用されてきた長い歴史があります。長所としては、手術手技が比較的容易で、細工しやすいため鼻の形態を繊細に整えやすい点が挙げられます。また万が一手術
結果が希望に添わない場合でも、抜去、再挿入等の修正が比較的容易です。適応を見極めた上で“適切な大きさ・形態のインプラントを挿入する”という条件つ
きであれば、現在もっとも理想的な隆鼻素材であると考えられています。
また美容大国である米国、韓国では、ゴアテックス®(ePTFE)も一般的に使用されています。ゴアテックス®の最良の適応は、眉毛の内側(眉間)から鼻根、鼻背まで連続的に高くしたい場合です。
この場合には鼻根より眉間にかけ
て頭側に向かって広がりをもつ形状とする必要があり、インプラントに柔軟性が必要となり、シリコン・インプラントでは対応できないからです。
リッツ美容外科で一般的に行なわれている隆鼻術に関して、その適応、手術手技などを解説していきます。
1.シリコンインプラント
2.ゴアテックス®(ePTFE)
シリコンインプラントによる隆鼻は最も一般的に行われていますが、その形態よりL型とI型に分類されていますが、L型のストラット部分を短くカットした中間型のインプラントも存在します。 歴史的には80年代~90年代にかけてはL型インプラントが主流でしたが、鼻尖部皮膚の菲薄化、穿孔また長期的には頭側移動による過度の鼻尖挙上、短鼻の強 調などの合併症が多く報告されるようになり、現在では鼻根~鼻背までのI型インプラントが多く使用されるようになりました。
はじめに患者様の希望を詳細に伺います。鼻のどの部分をどの程度高くしたいのかによって、その術式も異なってくるからです。一般的には、鼻根から鼻尖部に至るまで鼻全体を高くしたいという希望がもっとも多いのですが、鼻根部のみ、鼻根から鼻背部まで、鼻背部のみ、鼻尖部のみ、など多様な希望があります。なお
鼻尖部はインプラントで高くしようとすると、早晩必ず合併症を招きますので行っていません。
隆鼻術において、デザインの際には鼻だけを単体で見てはいけません。横顔では、前額・口唇・頤との関係が重要です。正面顔では目頭間の距離・鼻長・鼻尖・鼻翼幅などを考慮します。時に隆鼻だけでは満足いかないような症例では複合的な手術を提案する必要があります。
I型インプラントは患者様ごとに長さを調節するのですが、上端と下端の位置決めが重要です。原則としては、上端は鼻根の最低点(nasion)よりやや頭側からスタートすべきであり、I型における下端はsupratip
breakより尾側の皮膚の厚い部位までとする。
現在L型インプラントをほとんど使用していませんが、稀に鼻尖のprojectionが足りず、やや下を向いている症例に限り、tip-up効果を期待してL 型インプラントを使用することもあります。
手術前に患者様が坐っている状態で、理想的なインプラントの挿入位置を鼻の皮膚上にマーキングします
もっとも大切なことは正中線を見極めることです。皮膚にマーキングする際に両目頭間中央点(A)と、cupid bowの中央点(B)(口唇が偏位している場合には鼻柱基部(C))を基準点とし、A-BないしはA-Cを鼻すじの正中線とします。
鼻根部におけるインプラントの上端として、開瞼時の両上眼瞼縁(睫毛)を結んだラインが基準となります。鼻を長く見せたい、目と目を近づけて見せたい場合には、上限として眉毛内側下端同士を結んだラインまで挿入することもできます。その場合には後述するゴアテックス®を適応するべきです。
一方、nasionを基準に、この点より尾側からスタートさせると、インプラントの上端が輪郭として皮膚上からも認識されやすいため最低点(nasion)よりは頭側からスタートさせる必要があります。
局部麻酔あるいは静脈麻酔を選択します。
隆鼻術単独で行う場合と、鼻尖形成術等の併用手術を行なう場合とで、またI型、L型など使用インプラントによっても切開部位が異なります。
I型インプラント単独で行う場合は、鼻の孔の奥の鼻軟骨間切開(IC incision)を選択します。一方、L型インプラント挿入の場合には片側ないし両側の鼻翼軟骨下切開(IF incision)で行ないます。
ところで当院では、鼻全体の隆鼻を希望する患者様の場合には、I型インプラントと鼻尖形成術(耳介軟骨移植を含む)を併用することが多く、その際には両側IF incision(鼻翼軟骨下切開)を選択します。
剥離層は鼻翼軟骨から上外側鼻軟骨上(IC incisionでは上外側鼻軟骨上)をSMAS下にて頭側に剥離をすすめ、鼻骨下端から鼻骨骨膜下にて予定範囲まで剥離を行ないます。
インプラントの長さの調節は上記に述べたとおりです。さらに厚みの調整、柔軟性の調整が必要です。インプラント両側に一辺が2mm程度の小さい三角形の切れ込みを数箇所ずつ入れることによりインプラントの柔軟性が増し、形成される被膜を考えても固定性が増すと考えらます。さらに2mmディスポパンチで3箇所の孔を開けることにより、この孔に組織が入り込むことによってインプラントは動かなくなります。インプラントの細工終了後に上下端に7-0黒ナイロン糸を通しておき、準備完了です。
リトラクターで剥離腔を保持し、先にインプラントに通してある上端のpull-out用の糸を直針に通して皮膚側の予定挿入位置に引き出していきます。鑷子でインプラントを把持しながら鼻根部まで挿入します。
挿入後は視診(正・側面)、触診にて、インプラントの厚み・大きさが適当か、形状は合致しているか、偏位なく正中に入っているか、反転・屈曲していないか、などを慎重に確認します。問題がなければ、下端の予定位置にもpull-out用の糸を引き出して、上下とも皮膚側に糸をテープ固定します。このことにより上下、左右ともに予定位置にインプラントが挿入されていることになるわけです。
鼻腔内は6―0青ナイロンで縫合します。
術後5日間は、偏位を防止するためにインプラントの両端に濡れ綿でガードして、スキントーンテープによる固定を行ないます。抜糸は術後5~7日目とする。腫れに関しては、大まかな腫れは5~10日間程度とお考えください。
斜鼻にもいろいろなタイプがあり一括して扱うのは難しいのですが、当然その鼻スジに沿ってインプラントを挿入した場合に、斜鼻は一層強調されてしまいます。鼻骨骨切り、鼻中隔矯正等の根本的改善を行なわない条件下では、インプラント挿入の際には注意が必要です。
本症例は鼻根部~鼻背部がわずかですが左側にシフトしています。鼻すじに沿ってインプラントを挿入すると、より一層斜鼻が強調されてしまうため、剥離の際にできる限り中央線(A-B)に沿って剥離し、あくまでこの中央線に沿って左右の剥離を均等に行ないます。
さらにインプラント裏面のカーブはその中心が鼻骨のピラミッドの頂点に一致しやすいため、インプラントの細工も重要です。インプラント裏面で敢えて非対称に 溝を彫り、この溝と鼻骨ピラミッドの頂点が一致した位置で固定されることにより、実際の鼻スジは中央線(A-B)に沿うようになります。
このような場合にはインプラントのみでは矯正は難しく、鼻尖部で鼻翼軟骨、あるいは鼻背部にて外側鼻軟骨の部分切除等の矯正を同時に行い、インプラントを挿入します。本症例ではI型インプラントと鼻尖形成を同時に行っている、術後はほぼまっすぐな鼻すじとなった。
軽度なhump(段鼻)は、非常に多くの患者様に存在します。humpには手を加えず、全体の隆鼻を行なうことによりhumpを目立たなくする方法を説明します。
hump
の部分ではインプラントの厚みを薄くすることも当然ですが、それで毛では不十分で幅も細くする必要があります。humpを細かく観察すると、その部分が前方にも側方にも突出していることがほとんどです。この部分でインプラントの幅を狭くすることによりhumpにフィットして、インプラントの浮き上がりがなくなり、高さを抑えられることによりhumpを目立たなくします。
尚、インプラントの薄く細工した部分(hump上に一致する)に7-0黒ナイロンを通しておく。
薄
くかつ狭く細工した部分をhumpに確実に一致させるために、このpull-out用の7-0黒ナイロン糸を直針に通して鼻腔内切開創からhumpのマーキングした部分に糸を通します。この糸はインプラントがずれないように皮膚にテープ固定し、5~7日後、鼻腔内抜糸時に同時に抜糸します。
鼻尖が上を向いている患者様の場合に、安易にL型インプラントを使用して鼻尖部を前下方に突出させることは出来ません。その理由は、長期的にインプラントの頭側偏位で、かえって鼻尖が高く上を向くことになり、不自然な形態となることが多いからです。また無理をすると、鼻尖部にインプラントの穿孔、露出がおこる可能性もあります。
短鼻に対する整鼻術として、I型インプラントに鼻尖形式術(耳介軟骨移植を含む)を併用します。重度の短鼻に対しては、経鼻柱切開より耳介軟骨移植による鼻中隔延長術を、軽度から中等度の短鼻に対しては、鼻尖部に耳介軟骨のonlay
graftを行ないます。
1)鼻筋が太く、高さも十分にある症例には、通常は鼻骨骨切りが第一選択になります。太くて、高い鼻にインプラントを挿入すると余計に鼻が大きく感じられることになるからです。但し患者様の都合でインプラントでカムフラージュすることもあります。鼻尖縮小術などを併用して満足する結果となることもあります。
2)鼻すじは太く、低い症例では、インプラント挿入が良い適応になります。挿入するインプラントは幅が標準より細いもので、厚みはおよそ1.5~2mmをひとつの基準とします。
本症例では、手術前かなり鼻すじが太かったため、鼻骨骨切も検討されましたが、鼻すじを細くしたいと同時に高さもほしいということで、インプラントを選択しました。
過去にインプラント挿入手術を受けていて、何らかの理由でその入れ替えを希望する患者様は少なくありません。
1)長期的にインプラントが挿入されていて、皮膚が伸展し菲薄化している症例では「最近になりインプラントがはっきり皮膚の上からも認識できるようになった(over-prominence)」と訴えられます。このような場合、インプラントの入れ替えを行ないますが、既存のインプラントを抜去せず、挿入された状態のままでインプラントの裏面(正確にはインプラントの被膜の裏側)に新しくポケットを作成します。その後に被膜の下端を一部開いて既存のインプラントを抜去します。新しいインプラントは既存のものより“薄くて、柔らかいタイプ”に交換し、被膜下に作成した新しいポケット内にインプラントを挿入します。被膜は既存インプラントの表面、裏面にできているため、ある程度の厚みがあり、できる限り深層に挿入することによって、インプラントの輪郭を目立たせないようにします。
2)インプラントが動揺する(動く)ことを気にされて入れ替えを行うこともあります。『現在は皮下に入っているインプラントを骨膜下に入れ替えることによって動かなくなります』という説明をすることになります。しかし実際には、このような修正手術においては骨膜がきれいに温存されているかどうかわからず、インプラントが安定するとは限らないのが現実です。あくまで骨膜が温存されていることが修正成功の条件ですが、これは修正手術前に確認できないことであり、患者様には術前に理解していただかねばなりません。
術前
術後3ヶ月
術前
術後4ヶ月